実例:
05年10月8日に上海に ある会社と無期限労働契約を結んだ 余さん(仮名)は、睡眠の困難、心神耗弱に悩み、病院での診察の結果、不眠症と診断されたので、会社に対して、会社を一ヶ月間休む必要があるという内容が記された診断書を06年5月31日に病気休暇届とともに提出した。会社はこの届出を受理し、余さんに対して診断書どおり6月1日から30日まで会社を休むことを認めた 。
ところが7月1日、会社は診断書を発行したその病院に確認を取ったところ、余さんが提出した診断書は偽造されたものであることが判明したたため、会社は同月10日、余さんに対して病気休暇届の受理を撤回し、さらに当社の就業規則に違反したことを理由に余さんとの労働契約を解約することを記した解約通知書を同人に交付した。
これに対して余さんは、会社に病気休暇届を提出したのはすでに不眠症の症状があり、心神耗弱状態であった期間であり、正常な判断ができておらず、その届け出行為そのものは責任を負うべき義務はなく、従って会社がこのことを理由として労働契約を解約することも無効であると解されるため、労働契約解約の撤回を求めて労働仲裁委員会に仲裁を申請した。
仲裁委員会は、余さんが心神耗弱状態であり、正常な判断ができない状態であったことを証明できないため、その仲裁請求を却下した。
そこで今度は、余さんは裁判所に提訴し 、会社に対して 労働契約解約通知を撤回するとともに、通知をした日に遡及して労働契約どおりの給与を現時点(07年4月)まで一括支給するよう求めた 。
当裁判所の法廷審理においては、専門の鑑定結果、余さんは会社への病気休暇届の提出の際、心神耗弱状態であったため、その際に行った 行為は正常な判断ができず、責任能力無し、と認定された。
判決:
余さんは会社への病気休暇届の提出の際、心神耗弱状態であったため、その際に行った行為は正常な判断ができず、責任能力無し、と認め、虚偽の病気休暇届に対する法的責任を問うことはできない。よって、「労働法」第2条、第16条、第50条に基づき、以下の判決を下した。
1.06年7月10日付けの解約通知書を撤回すること。
2.会社は 余さんに対して契約上の給料を06年7月1日から10日の間、 および給料月額の25%の損害賠償 金を支給し、前年度の上海市政府職員の平均給料を基準とした給料を06年7月11日から07年4月30日の間、支給すること。
会社はこの判決を不服としてただちに控訴し、余さんに対する7月10日付けの解約通知は有効であり、それゆえにこれまで 06年7月から07年4月の間の給料を支給していないことは正当性がある、と主張した 。
控訴審は一審の判決を全面的に支持し、 会社に対して一審判決どおり余さんに支払いを命ずる判決を下した。
本件の焦点:
会社側が就業規則違反を理由として一方的に労働契約を解約することができるかどうか、また解約が無効と判断された場合、原告労働者に対しての金銭的補償が必要かどうかにある。
コメント:
本件において、一般的な感覚では会社の解約決定には理があるように思われる。会社は、余さんが提出した病気休暇届が虚偽であると判明した段階で就業規則に照らし、解約を決定して本人に通知したのではあるが、当時の余さんが心神耗弱状態であることは把握していなかった。もっともこれは司法鑑定などの方法により確認して初めて断定できるものではあるため、会社が余さんあてに提出した解約通知書は基本的に違法性はない。
一審、二審ともに会社の解約通知書をなぜ認めなかったか。その理由は会社側に悪意があったためではなく、余さんの心神耗弱状態でなされた行為が無効と判断されたためであり、会社側に重大な法的違反があるということではない。
ここで気をつけなければならないことは、会社側の解約決定に悪意、瑕疵があれば、(一審が下した判決の)余さんに対するその間の給料及び損害賠償金の規模に本件と大きな格差が生ずる点である。
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